![]() |
善次さんは、また、 他人の痛みを取り除く不思議な力を 持っていました 飼っていた猫が溺れて死にかけたとき 悲しむわたしを見た彼は、説明のできない 方法で助けてくれたのです 「すべての人の悲しみを 取り除く事ができたらいいのに…… せめて、この村の中だけでも……」 |
![]() |
村の山には小さな神社があって そこから見るふもとの景色が わたしは大好きでした けれど、善次さんはけっして 鳥居から中に入ろうとはしませんでした 「善次さんは神様だから、ほかの 神様のおうちには入れないのね」 おどけたわたしの言葉に、善次さんは 急にくちびるを噛んで黙り込みました |
「……どうしたの?」 彼の顔を覗き込んで、わたしはびっくりしてしまいました その目には涙があふれていたのです 「奈津子ちゃん…やめてくれ。僕は、神様なんてものからは一番遠いところに いるんだから」 わたしには、善次さんがどうしてそんなことを言うのか分かりませんでした ◆ ◆ ◆ やがて、まわりの友達がつぎつぎと街へ出たり およめに行ったりする歳になりました 「奈津子、おまえは善次を好いておるのじゃろ」 おじいちゃんはわたしの気持ちをすっかり見抜いていました | |
![]() |
善次さんは村のみんなに好かれていて、 できるなら村の娘の婿になって ここに腰を落ち着けてほしいと 誰もが望んでいるようでした わたしは、どきどきしながら できるだけさりげなく 善次さんにとくべつな女の人が いないのか聞いてみました そんな人はいないよ、と 善次さんはちいさく答えました 「…僕には、誰かと幸せになる 権利なんてないから…………」 |
| まえ もどる つぎ | |